Sermon法 話

出迎え三歩 見送り七歩


「出迎え三歩 見送り七歩」という言葉があります。
出迎えは誰でも丁寧にできるのですが、出迎えと同じような見送りができるかというとなかなかできないものです。
ですから、見送り七歩、相手の後ろ姿に礼を尽くしなさいよということです。

私には印象に残っている見送りがあります。東日本大震災の後、宮城県にボランティアに行った後、気仙沼のホテルに泊ったことがありました。気仙沼では8月下旬にサンマ漁が解禁になるときに、サンマ船の出航を大漁旗を振って見送る「出船おくり」という伝統行事があります。そのホテルでは出船おくりにならって、お客さんが帰るときにフロントスタッフが大漁旗を振って見送ってくれるのです。私たちは4人で泊ったのですが、4人だけなのに3人のスタッフが大漁旗を振って、車が見えなくなるまで見送ってくださいました。これはまさに「見送り七歩」だなと思い、今までで泊ったホテル・旅館の中で一番印象に残る見送りになっています。

「見おくり」という小学3年の女の子の詩があります(熊本県玉名市蓮華院誕生寺主催 子供の詩コンクール2017年優秀賞作品)。

                    見おくり 木村心都  

お母さんは いつもいそがしいのに 学校に行くとき見送ってくれる 
「いってらっしゃい がんばってね」とにこにこと言ってくれる
私も「うん がんばってくるね」とにこにこと言います  お母さんが応援してくれるから 私もしっかりがんばろう
私が玄関を出ても 二階の窓から私が見えなくなるまで「がんばってね」と見ててくれる
私は心があったかくなって 元気に行ける


いいですね。七歩どころか百歩くらいいってますね。お母さんの思いが子供さんに伝わって大きな力になっています。

空海上人ご入定(にゅうじょう)後86年経って弘法大師というおくり名を醍醐天皇よりいただいた時、観賢(かんげん)僧正と弟子の淳祐(しゅんにゅう)が高野山奥の院御廟(ごびょう)にご報告に上がりました。
お衣をお替えして大師号のご報告を申し上げ帰る時、御廟の橋のところまで来ますと、橋の横でお大師様が合掌されるお姿があるではないですか。勿体なくて思わず合掌を返す二人に、お大師様は「我、汝(なんじ)の仏性を送るなり」とおっしゃいました。あなたの中にある仏様の心を送っているんですよということです。

お大師様にならって、その人に宿る仏様の心を拝むつもりで後ろ姿を見送ればさらに心のこもった見送りができることでしょう。

(福井新聞「心のしおり」欄に掲載分を手直ししたものです)


一覧へ戻る