Sermon法 話

火と水とトイレ


 私は幼少の時から、祖母から火と水とトイレを使う時には、使う前に「お願いします」、使い終わったら「ありがとうございました」と言いなさいと教えられました。ではなぜ、そうしないといけないのでしょうか。

 私たちは生まれてから命が尽きるまで、火と水とトイレを使わない日はありませんね。それも毎日何回もお世話になります。そして、火にも水にもトイレにも神様がいらっしゃいます。火の神様は火天(かてん)様、火を使うかまどには三宝荒神(さんぽうこうじん)様、水の神様は水天(すいてん)様、トイレには植村花菜さんの「トイレの神様」の歌ですっかり有名になった女神様がおられます(仏教では烏枢沙摩明王うすさまみょうおう)。神様が宿っておられる場所だから、使うときには感謝の心を運びなさいよということなのです。

 花菜さんもおばあちゃんからトイレの神様のことを教えてもらいます。歌詞の中で「トイレにはそれはそれはキレイな女神様がいるんやで だから毎日キレイにしたら 女神様みたいにべっぴんさんになれるんやで」とありますが、おばあちゃんは鹿児島県の沖永良部島の出身で、トイレをキレイにするとべっぴんさんになるというのは、おばあちゃんの生まれた地区の言い伝えだそうです。

  昔のトイレはポットンだったので、私は子供のころ、晩にトイレに行くのが何か出そうで本当に怖かったです。それもそのはず、井戸もトイレも地下のあの世につながる聖なる穴だからなのです。異世界につながる入口だから怖いと感じるのも当然です。でも水洗になって、怖さはずいぶん薄れたのではないでしょうか。

  千葉県市川市では子供が生まれて十一日目に赤ちゃんにおむつを被せて、おばあちゃんが抱いてトイレと井戸にお参りして、それぞれにお米をまくという風習があるそうです。お米をまくのはトイレの神様と井戸の神様への供物です。これからこの子がこの家のトイレと井戸の水を使わせていただきますとご挨拶をするのです。

 火と水を使う場所とトイレは、このようにとっても大事な場所だったのですね。


(福井新聞「心のしおり」欄に掲載されたものを手直ししました。)


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