皆さんはタイツリソウという花をご存知でしょうか?4月から5月にかけて、長い花茎にピンク色の花が、多いと15輪くらい連なって咲きます。花は最初はハート形をしているのですが、後で両側に開いて中にある白い花弁が見えてきます。花茎を釣り竿に見立てると、花が両側に開いた時に鯛が向き合って何匹も竿にぶら下がっているように見えるので「タイツリソウ」と名付けられました。何ともユーモラスなネーミングです。ところがです、英語名になると途端におどろおどろしくなります。「ブリーディングハート」即ち、「血の滴る心臓」という名前なのです。和名とのあまりのギャップにびっくりしますね。
なぜこうなるかというと、花が両側に開く前はハート形をしていて、ハートの下部からピンクと白の混ざった花弁が垂れ下がっているので、血が滴っているようにみえるのです。和名は全体を見て付けた名前、英語名は一つの花びらの特定の時期を見て付けた名前と言えます。
日本では苗字が先、住所は大きい地名から始まって最後に番地を書きますね。西洋では名前が先、住所は番地から始まって広げていく。全体から見るか、部分から見るかの違いが名付けにも表れていて面白いです。
象を見たことがない人に目隠しをしてもらって象を撫でてもらい、その印象を語ってもらいました。鼻を触った人は杵のようだと言い、耳を触った人は扇のようだと言い、足を触った人は臼のようだと言い、尾っぽを触った人は綱のようだと言い、牙を触った人は根っこのようだと言いました。そしてお互いが自分の主張を譲らず、対立が深まってしまいました。象はこれらすべての特徴を備えているので、みんな正しいと言えるのですが、部分にこだわって全体を見ないと対立は深まるばかりです。
仏様の目は全体を見て先を見通す目です。仏様の目でものを見ることができるようにしたいですね。
(福井新聞「心のしおり」欄に掲載されたものです)