Sermon法 話

ハグロトンボ


トンボは稲の害虫を食べてくれるので、古来日本人に良いイメージを持たれていました。西洋では反対に不吉な虫と考えられていたので面白いですね。また、前にしか飛ばず、退くことがないので「不退転」を表し「勝ち虫」とも呼ばれ、戦国時代には武具の装飾にトンボの姿が用いられることもありました。トンボの別名を「秋津(あきつ)」と言い、日本の国土のことを「秋津洲(あきつしま)」と言うくらいですから、如何にトンボが重用されていたかがわかりますね。

トンボの中で、ハグロトンボと言う文字通り羽が真っ黒なトンボをご存知でしょうか。オスは胴体に緑色の光沢がありますのでメスとオスの区別はすぐつきます。 上の写真はメスです。

ハグロトンボは他のトンボと違って蝶のようにふわふわと舞うように飛びます。止まると両の羽をゆっくりと水平になるまで広げていってさっと閉じるという動作を繰り返します。この動作が合掌をするように見えるので、合掌トンボとも神様トンボとも言われます。
他のトンボとは違う黒い神秘的な姿と、7月のちょうどお盆の時期に出てくるということから、ご先祖様の魂がトンボとなって帰ってきたと昔の人は考えました。赤トンボはその色からお盆の迎え火送り火に例えられました。赤トンボの道案内で先祖様の魂がハグロトンボとなって帰って来るととらえたのです。なので極楽トンボと言うこともあります。色んな呼び名がありますね。

うちの寺の庭にもハグロトンボが毎年現れます。今年も7月の初旬に出てきて、8月24日の地蔵盆の日を境にいなくなりました。まさしくお盆の月の二か月間いたことになります。例年4,5匹いるのですが、今年は例年より多い8匹以上いました。

初盆には新精霊が功徳を積むために無縁さんを連れて帰って来て一緒に供養してもらうと言われます。今年は母の初盆でしたので、母も無縁さんを連れて帰って来たので、例年よりも多くハグロトンボが出てきたのかななどと楽しく想像していました。

赤トンボを迎え火送り火に例え、ハグロトンボを先祖様の魂と感じ、羽の開閉を合掌の姿と見る昔の人の感性に感心するとともに、お盆の時期を先祖様と共に大切に過ごしていたからこそ、そういう連想が働いたのだろうなと思います。

ちなみに、ショウリョウバッタのショウリョウは漢字で書くと「精霊」で、その姿がお盆に流す精霊船に似ているので名付けられました。あのバッタの姿を見て精霊船に似ていると思うところがすごいですね。


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