Sermon法 話

おまかせすること


令和もはや三年目を迎えました。スペイン風邪のパンデミックがほぼ百年前の出来事ですから、コロナ禍にいる私たちは、一生に一度遭うか遭わないかの困難に直面していることになります。今年はワクチンや治療薬が早期に運用されることがまず第一の願いですね。

昨年のアメリカ大統領選での最初の公開討論会は史上最悪の討論会と言われました。トランプさんがとにかくバイデンさんの発言に割り込んでくる、七十才を過ぎた二人が非難の応酬を繰り広げるで、とても世界一の大国を率いるリーダーとなる人とは思えない姿でした。相手を貶めて自分を良く見せようという我の張り合いに映りました。

それに対して、上皇后美智子様は小さな我というものを離れた境地にあるなと思ったことがありました。それは、昨年十月二十日のお誕生日に合わせて発表された宮内庁の近況報告の中でのお言葉です。
上皇后様は乳がんを手術された後のホルモン治療の影響で左手指のご不自由があり、お好きなピアノの練習ができないそうです。侍従さんたちはさぞかし寂しくお思いなのではと想像していたのですが、上皇后様は今までできていたことを授かっていたことと思われるのか、できなくなったことを「お返しした」と表現されて受け止めておられるご様子、とありました。

「お返しした」とおっしゃられることが、老いに逆らうのではなく、受け入れお任せした境地なのだなと感じ入りました。返すのですから返す先があります。仏様の元へとお返しするのであって、ゆくゆくは私の命も仏様へとお返しするのです。「南無」とは仏様に委ねお任せすること。上皇后様のご心境はまさに「南無」の境地と言えるでしょう。

福井新聞「心のしおり」に掲載されたものです


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